SMの「やめて」って性的同意的にどうなの?

目次

「イエス」と「ノー」では測れない“グレーゾーンの同意”を理解する

はじめに:SMと同意の難しさ

「やめて」と言っているのに、相手は止めなかった――。
逆に「やめて」と言ったけど、本当はもっとしてほしかった――。

SM(サディズム&マゾヒズム)の世界では、こうした言葉と本音のズレが、しばしば話題になります。とくにプレイ中の「やめて」は、演技としての可能性もあり、相手がどう受け止めるかで大きく意味が変わってしまいます。

では、性的同意という観点から見て、「やめて」はどう扱うべきなのでしょうか?

この問題に対しては、単純に「イエス=同意、ノー=拒否」と割り切るのではなく、もっと複雑で文脈依存な理解が求められます。

今回は、SMにおける「やめて」の意味と、同意のグレーゾーンについて、専門家の研究や実際の事例を交えながらわかりやすく解説します。

SMにおける同意は“YES/NO”だけでは足りない

アナ・ファンガネル(Anna Fanghanel)の論文 “Asking for it: BDSM sexual practice and the trouble of consent”(2020年)によると、
SMにおける同意は、単なる「イエス」「ノー」の明示だけでは語れない、文脈や関係性に根ざした複雑なプロセスであるとされています。

SMの世界では「やめて」が演技であることも多く、場合によっては「もっとして」という意味で使われることもあるため、表面的な言葉の意味だけを信じてしまうと誤解やトラブルの原因になりかねません。

ファンガネルはこのような状況を、「グレーゾーンとしての同意」として捉え、以下のような指摘をしています。

「『イエスはイエス、ノーはノー』という考え方では、BDSMにおける同意のリアリティを十分に捉えきれない。多くの場合、同意は関係性の中で形成され、文脈によって意味が変わる」(Fanghanel, 2020)

「やめて」は本気?演技?見極めが難しい理由

たとえば、プレイ中にパートナーが「やめて」と叫んだとします。
それが演技か本音かは、言葉だけでは判断できません

その理由には、以下のような背景があります:

  • SMでは「強引さ」や「抵抗」も快楽の一部として演出されることがある
  • 「やめて」と言うことが、興奮を高める要素として機能する場合もある
  • 相手に「主導権を握ってほしい」という服従的欲望が込められていることもある

しかし同時に、その「やめて」が本当に不快や痛みから来る訴えである場合、無視すれば明確な同意違反や性的暴力に該当する可能性もあります。

セーフワードの役割:明確な「ここから先はダメ」

このような曖昧さを回避するために、SMプレイでは「セーフワード(安全のための合図)」が使われます。

たとえば、プレイ中に「赤」と言えば即中止、「黄」でやや不快、「緑」で続行OK…という具合に、感情や意志を客観的に伝えるための言語的スイッチが用意されます。

セーフワードは、言葉の演技性から解放された“真の同意”を示す仕組みであり、初心者こそ絶対に導入すべきルールです。

SMの同意枠組み:SSC、RACK、4Csとは?

アナ・ファンガネルの論文では、BDSMにおける同意の枠組みとして、以下のような代表的モデルが紹介されています。

Safe, Sane, and Consensual(SSC)

「安全・正気・合意」の原則で、SMを健全な実践として社会的に認めさせるための枠組み。

Risk-Aware Consensual Kink(RACK)

「リスクを理解した上での合意」を強調。SMには常にリスクが伴うという現実を直視したアプローチ。

4Cs(Consent, Communication, Caring, Caution)

「合意・コミュニケーション・思いやり・注意」の4つを軸に、より繊細で倫理的な実践を追求する枠組み。

これらは、SMの実践が暴力や虐待と一線を画すための“倫理的基準”となっています。

「やめて」と言ったのに止めなかった:それって同意違反?

アナ・ファンガネルの論文 “Asking for it”(2020年)より引用すると、
ある女性が「ロープだけ」と伝えたにも関わらず、プレイ中にパートナーが叩いたという事例があります。

「彼は彼女が楽しんでいると勝手に判断したが、彼女はそれを同意違反と感じていた」

このように、相手の解釈がズレた結果、意図しない同意違反が起こるケースは少なくありません。

同意とは「本人がどう感じたか」が最も重要であり、「楽しんでいたように見えた」などの外的判断では、正当化できないのです。

結論:SMにおける「やめて」は、同意の“警告サイン”として受け取ろう

SMにおける「やめて」は、言葉そのものよりも、文脈と信頼関係の中で理解すべきものです。

しかし、たとえ演技であっても、「やめて」と言われたら一度止まる、あるいは確認するという姿勢は、倫理的な同意実践の基本と言えるでしょう。

最低限守るべきこと:

  • セーフワードを必ず設定し、事前に共有しておく
  • プレイ前に「どこまでOKか」を丁寧に話し合う
  • 「やめて」を軽く見ない。演技かどうかは必ず確認する
  • プレイ後に感想を共有し、相手の感情を振り返る

性的な同意とは、言葉だけでなく、信頼と対話に基づく“共同作業”です。
だからこそ、グレーな言葉の中に隠れた「本音」を見逃さない姿勢が、SMの魅力をより深く、安心して楽しむ鍵となるのです。

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